■2.0 シミュレーションモデルの次元
コンピュータ・シミュレーションとして電磁場問題を解く場合、複雑性を表す指標としてシミュレーションモデルの次元があります。 次元といいますと、空間的な拡がりを想像しますが、ここでは、ジオメトリ・時間依存性・物性・他の解析との連動・錬成、を含めて幅広く、シミュレーションモデルの次元として論じています。
■2.1 ジオメトリによる区分
解析対象空間の次元または座標系
- 0次元解析・・・空間的広がりは考えない。いわゆる集中定数系。一点モデルなどとよく言われます。
- 1次元解析・・・球対称として解く問題
- 2次元解析・・・直交系((x,y):z方向は無限長)と円筒系(r,z)として解く問題
- 3次元解析・・・直交系(x,y,z)、極座標系(r,θ,z)、自然座標系として解く問題
次元レベルが高いほど、いろいろな効果・現象を精度良く解析できるのは当たり前ですが(2次元より3次元、3次元静解析より3次元動解析、線形解析より非線形解析)、取り扱う変数の数が幾何級数的に増えますので、関心のある問題の解の精度が得られるようにモデルを選択する必要に迫られます。
よく行われる方法として、解くべき問題の時空の対称性を考慮に入れて次元を減らし、問題を解きやすくする方法がとられます。 例えば、高さ(z)方向に電磁場の変化が少ない問題を、二次元(x,y)電磁場解析問題として解くという方法です。
しかし注意すべき事として、一般的に、次元が少ない方が変数の数が少ないので解きやすいと思われていますが、 電磁場問題はもともと三次元(本当は四元)問題なので次元を減らしたためにかえって不可解な項?が出てきて、 問題を複雑にすることもあります。
0次元解析(集中定数系)は、主解析の補助として用いられることがあります。 磁場解析に於いては外部負荷回路や電源・電流回路がそれにあたります。 また、高次元解析の応答特性をダイナミックな計算結果として、伝達関数や状態方程式を組み合わせたものに0次元解析問題として縮約することができれば、応用・利用範囲は広がるでしょう。
※ゲームの例ですが、攻撃力・防御力・... などで複数のパラメータセットで表してしまうものは典型的な集中定数系(0次元)モデルです。 いくらグラフィックが3Dでも、ゲームパラメータが0次元というのは良くあります。ものの壊れ方一つとっても同じ壊れ方がないのが現実です。
■2.2 時間依存性による区分
- 静解析
時間項を考えない静電場・静磁場解析。 モデルが動く場合でも、注目すべき現象の動解析で掲げる時間依存項が無視できる場合は、静解析でも十分です。 例 ステッピングモーター
- 動解析
時間項を考慮した解析です。 動解析というと、モデルが動くことを想像しがちですが、実際にはそうではなく解析結果に時間依存項が大きく影響するかどうかが決定要因です。
(1)渦電流・逆起電力・変位電流・動電流(電場解析)など電磁場のみ動きに注目した狭義の動解析と
(2)モデルの動き・変形・(温度・力などの影響による)物性の時間的変化まで含めた広義の動解析があります。
さらに、時間依存項が、定常のものと非定常ものとがあります。 これらは上記(1),(2)のレベルでもそれぞれ存在致します。
(A)非定常解析
過渡解析とも言います。 一過性の現象、あるいはランダムな現象を時間軸上で追ってシミュレーションする解析です。 大抵の場合は、解析のシナリオが存在します。 例えば、電磁機器の起動・停止などです。 もちろん、動く物が無くても電源投入時・切断時の場の変化を解析も含まれます。 非定常の時間項解析には、陽解法と陰解法がありますが、これについては後に詳しく述べましょう。
(B)定常解析
一定の周期で現象が繰り返されるものです。 いわゆる、"定常状態"の現象を解析するわけですが、"定常状態"と良く似たものとして、"平衡状態"というものがあります。 "平衡状態"は、外見上、物と場の変化が無いよう(マクロ的に時刻tに対して一定のバランスが保たれている)でも役者が入れ替わっています。 これを"定常状態"と呼ぶ場合もありますが、電磁場解析では"平衡状態"を解くのは定常解析ではなく、どちらというと静解析に分類されます。 (例 静磁場解析で一般的に扱う直流は一定の電流が流れているが、個々の電子は止まっている訳けではない。)
つまり、定常解析では時刻tに対して周期的な変化をする場を求める解析ということになります。
- 電磁流体解析
2 の動解析(2) の特殊なものですが、個々の磁性体・誘電体・導体(例えば鉄粉・イオン・コロイド粒子)などの状態を解くのではなく、集団としての挙動を扱おうとするものです。
■2.3 物性による区分
物性による区分をシミュレーションモデルの次元に入れたのは、かなり違和感を感じるかも知れませんが、実際に解析するという立場からすると、計算の過程で時空(x,y,z,t)を含めたループにさらに、もう一つ以上のループ(x,y,z,t,m,..)が加わる様相を呈することになるからです。
物性による区分は複雑です。 電磁場の特性を決定づけるミクロ的な物性モデルは多次元関数または複雑なテンソル量になってしまいます。
工業的応用範囲での電磁石・永久磁石等の感覚で、マクロ的な取り扱いのときにいかに簡単に(次元・次数を落とす等して)して扱うかがポイントとなります。
(最近ではミクロ的な振る舞いまで考慮すべき工業製品も身の回りにあります。)
言いかえれば、問題とされる解の精度・特性・領域(範囲)をできるだけ絞り込み、 それに必要な物性のみを取り扱うようにしなければなりません。
今日では、コンピュータの発達により、いわゆるフルオプションによる計算が安易に選択されますが、 あまりにも複雑過ぎる物性モデルは時間とお金の浪費です。 たとえできたとしても、自己満足にしか過ぎません。
これは、ジオメトリや時間依存性の次元の取り扱いにも通じるところがあります。 しかし、ジオメトリや時間依存性に関しては、可視的で比較的最適に近い選択を可能にしますが、
物性に関しては予見し難い面が多く見受けられます。 それは、ジオメトリや時間依存性の次元を構成する変数の独立性があり、偏微分で見ると比較的線形的に変化するのに対して、物性の方は独立性ある変数を分離すること自体難しいのです。 独立変数のループの場合、単純な多重ループでしかも、その規模は離散化数の乗算で見積もることができます。 しかし、複雑な依存性のあるもの、あるいはその状況が把握できないものには、再帰的なロジックによる収束計算が行われまることが、間々あります。 しかし、離散化の刻みが十分精度がないと、条件が満足することが保証できません。 したがって、解を得たときに必要条件の充足だけではなく、検証を行い、十分条件であるか検討するようにしましょう。
- 線形解析
取り扱う物性に直接的・間接的に電磁場依存性がない場合に用いることができます。
強磁性体を扱う磁場解析は一般に非線形です。
線形解析を行うものに次のような例があります。
- 導体のみの動磁場解析(超伝導体の解析も含む)
- 導体のみまたは一般の誘電体の静電場解析
- 電磁波解析
- 比較的影響の少ない間接的非線形
線形解析では時間のかかる収束計算等が必要ないので、比較的メッシュ数の多い大規模なモデルまで取り扱えます。
定常入力(交流等)の時間項に関して、複素数を利用して解くことができます。
- 非線形解析
非線形性も直接的なものと間接的作用あるいは連成・連動計算の結果、非線形性を有するものがあります。 ここでは、直接的つまり電磁場解析だけで考慮しなければならない非線形性について分類してみます。 つまり、透磁率(誘電率)の磁場(電場)依存性ですが取り扱う次元により、
- 単にその強度のみに依存するとして取り扱う場合
- 方向依存性も考慮して取り扱う場合
- さらにヒステリシスを考慮して取り扱う場合
に分かれます。
ここで注意がいるのは、ヒステリシスを考慮する場合は、方向依存性を抜きにして扱うことが難しい場合が多いこと。 つまり方向依存性を考慮した取り扱いをしないとヒステリシスを考慮した解析結果が芳しくないことなどが多く報告されています。
また、磁場の動解析では、磁気余効という比較的遅いヒステリシスの変化があります。
■2.4 連成・連動解析
解析システム(系)として電磁場解析だけでは、シミュレーションの解が得られないというものです。 狭義で考えますと 電磁場解析は動磁場解析と動電場解析の連成ですし、さらに細かく分ければ、動磁場解析は静磁場解析+渦電流解析+α という考え方もできます。 (実際のソルバーロジックはこのように作ることができる)
しかし、ここで言う連成・連動解析とは、運動力学・構造解析・流体解析・化学変化・素粒子原子核変動など異次元のモデルの解析も同時に解かないとシミュレーションできないというものを指しています。 言い換えれば、「物性による区分」で示した非線形解析の発展形の一種と見なすことができます。
いずれにしても、連成・連動解析は時間項を含む解析であることには変わりをありません。
また、同時に解くという言葉は、実は奥深いものがあり、
(1)別々のソルバーで通信しながら解く( ロジック的には同時ではないが、同じ時間軸で解く)
例 異なったアプリケーションを交互に実行する。 連成でなく連動です。
(2)一つのソルバーで違う次元のものを解く、内容的に(1)と同じものは含まれない。 つまり、典型的なも のとしては構造解析と磁場解析のマトリックスを一つにして解くもの(マトリックス錬成が)がピュアな錬
成解析と言えるでしょう。
もちろん、精度の点から言えば 連成 > 連動 です。 難しさから言うと 連成 >> 連動 なのでコストに見合った選択が必要です。 また、異次元の系が単純であれば0次元集中定数系として、単一マトリックス取り込んでしまうという手も有効です。
■2.5 マルチフィジックス?
ただし、異なった物理現象を同じモデル、つまり同じメッシュ分割で解くというのは、効率の良いものではありません。 個々の物理現象でボトルネックの場所とそのスケールが一致することは希で、非線形性も強く出るので八方美人的(美人とまでいけばいいのですが・・・)なモデルでは虻蜂取らずとなります。 教育用ならいいかもしれませんが、モノ作りで解析までして最適な性能を追求しようという方には向いていないでしょう。
メッシュだけではなく非モデル化・モデル化の取捨選択から、同じ形でも外形寸法の取り方(たとえば、無視できない円形ホールを外接多角形にするのか、内接多角形にするのか、その中間か・・・)、その解析特有のモデルに対する条件の入れ方等々、各物理現象ごとに個別に対応しなければよい解は得られません。 また、本質的に複数の物理現象が絡むと、周期境界性・対称性が崩れやすくフルモデルで計算することも覚悟しなければなりません。
残念ながら、2015年1月現在出回っているマルチフィジックスと称されるソフトウェアは、前節の分類から言うとほとんどが連動であり、本節の問題も残されたままです。
また、苦労してマトリックス連成でモデルを作成しても、マトリックスの性質が非常に悪くなるのが問題となります。 マトリックスの性質が悪いとは、数学的に言い換えると「条件数」が大きくなることです。 マルチフィジックスにした場合、非対角項が大きく、しかも多く出るため条件数は大きくなってしまいます。mumpsやpardiso
を使っての大規模並列のシミュレーションがありますが、とにかく大変ですww
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